業界分析

成長し続けるスマートホームの世界市場! 日本発のスマートホーム国際規格開発がもたらすメリットとは?

スマートホームの市場規模は、2020年の783億米ドルから2025年には1,353億米ドルに達し、11.6%のCAGR(年平均成長率)で成長すると予測されています。スマートホーム市場の牽引要因として、インターネット利用者の増加、発展途上国における消費者の可処分所得の増加、遠隔地でのホームモニタリングの重要性、省エネ・低炭素排出志向のソリューションへのニーズ、スマートフォンやスマートガジェットの急速な普及、多数のプレーヤーによるスマートホーム製品ポートフォリオの拡大、一般住民の安全性、セキュリティ、利便性への関心などが挙げられます。今回はスマートホームの世界市場と日本発のスマートホーム国際規格開発について解説します。

スマートフォンにより加速するスマートホーム

消費者の利便性、安全・安心、エネルギー消費量が増加するにつれ、安全・安心、スマートホームエンターテイメント、エネルギー管理に関連するスマートホームデバイスのトレンドが形成されていきました。

スマートホームデバイスとは、スマートテレビやホームセキュリティ機器、スマートスピーカーなど、スマートホームに関連する機器のことです。

スマートテクノロジーやコネクテッドテクノロジーは以下のものにより飛躍的に進歩しました。

・ホームオートメーション
・クラウドコンピューティング
・IoT
・人工知能などの技術革新の応用
・スマートフォンの普及
・インターネットアクセスの増加など

ホームオートメーションとは、コンピュータやネットワークに接続されたデバイス、家電製品、システムをインターネットを通じて制御、独立して遠隔操作する方法です。
スマートフォンとタブレットは、いずれも接続されたデバイスと相互に作用します。
スマートホームは、主にスマートフォンの普及率増加によって加速されたといえるでしょう。

新型コロナウイルスによる世界のスマートホーム業界への影響

2020年、世界的に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界のスマートホーム業界の成長に大きな影響を与えました。
中国では新規建設案件の減少や製造設備の一時的な停止などが中国市場の成長を阻害したことで、サプライチェーンが混乱し、スマートホームシステムの需要が減少しました。

それに対し、米国市場は他国に比べて高い成長が期待されています。それでもスマートホームシステムの利用が限られていることや、中国との貿易軋轢が続いていることが同地域のスマートホーム市場の成長に影響を与えているようです。

世界のスマートホーム市場に優位なのは北米

2020年、北米のスマートホームテクノロジー市場規模は270億8430万米ドルでした。
スマートデバイスへの需要の高まりと、スマートフォンやインターネットの普及率の高さから、北米がスマートホーム市場を支配しています。また、可処分所得の増加と政府の取り組みにより、調査期間中、アジア太平洋地域が最も高い成長率を示すと予想されています。

北米諸国のほとんどの住宅ではスマートホームデバイスが装備されており、英国やドイツなどの欧州諸国でもスマートホームの設置数は相当数に上ります。ホームオートメーションの概念は、世界にとって新しい考え方ではなく、ごく身近にあるものです。

スマートホームテクノロジーの世界市場規模は、2021年9月15日にREPORT OCEANが紹介した新レポートによると2021年から2027年で19.5%のCAGRで成長すると予測されています。

CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率(複利計算・年率・成長率))とは、企業の複数年にわたる成長率から1年当たりの幾何平均を求めたものです。
ビジネスの場では、一般的に企業の業績を知るためには複数年にわたり複利計算式で見ることが基本です。
CAGRは「一定の期間で平均どのくらい成長しているか」を判断材料にする際に有効な手段となります。

日本発のスマートホームにおける機能安全の国際標準規格

スマートホームは私たちの生活の質を向上させ、より豊かにしてくれるでしょう。
しかし、まだまだ問題点はたくさんあります。
たとえば、高齢の両親と離れて暮らしている場合、いつもならもう寝ている時間なのに電気が消えていないので、消し忘れて寝ているのだろうと思い、遠隔でこちらから電気を消すよう操作してしまうとします。良かれと思ってやった行為ですが、もし両親がまだ起きていて、突然部屋が真っ暗になって電気をつけようと転倒してしまい、怪我をする可能性もあります。また、何か不測の事態が起こっていて、動けずに床に倒れているかもしれません。

誰もが安全で安心感を抱けるルールを整備することが、スマートホームのさらなる発展に繋がるといえるでしょう。そのために日本発のスマートホームにおける機能安全の国際標準規格を作るために、IECで議論が進められています。

IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)とは、電気・電子分野における規格や測定方法の国際標準化を進める国際的団体です。スイスに本部を置き、IEC加盟は54ヵ国にのぼります。

国際的に規格というルールを設けることで可能となることは以下の通りです。
・各国間の輸出入に対して一定の取り決め
・安全性の担保
・輸出入の効率化を目指すなど

各国の国内規格に関してはIEC規格との整合性を図っていますが、各国により様々な事情があるという側面から独自の要求事項がある場合があります。

スマートホームの機能安全規格の国際標準化は、日本の経済産業省のバックアップの元、IEC参加国が重複するような規格案を検討していないことを確認した後、2017年にIECの会議でスマートホームにおける機能安全の国際標準規格の必要性を提案し、議論を進めてきました。

機能安全規格案を開発し、国際的な議論を続け、2021年1月に機能安全規格案に対して投票用委員会原案(CDV)が回付され投票が実施されました。投票結果は、一部の国から改善点などのコメントがありましたが承認されていました。コメントを解決し、最終投票を行えば、2022年度中には「IEC63168」という国際標準規格として成立する可能性が高い状況にまで来ています。

IEC63168は規格を管理、運用し、時代に合わせて部分的に変更できるよう安全確保のために以下の工程から構成されています。住宅環境は国によって異なるため、安全確保のために機能安全の国際標準規格は最低限の指針を示すものとしています。

・スマートホーム用の製品を設計、開発する際に安全確保のため一般的に要求される項目
・製品設計における安全活動やリスク分析の手法
・製造時における安全活動の指針
・製品リリース後のマネジメント

日本主導で国際規格開発が達成された場合のメリット

日本主導で国際規格開発が達成された場合のメリットは以下の通りです。

海外展開で有利になる

1つ目は「海外展開で有利になる」ことです。

日本主導で国際規格開発が達成されれば、IECで承認される前から国内企業に内容を周知することができます。
それにより、国内企業はその規格に適合した製品を素早く開発でき、海外展開でも有利になるため、国内メーカーにとって大きなメリットになると期待されています。
また、国際標準規格に適合した製品の場合、海外の国家プロジェクトのような大型案件でも入札基準をクリアしやすく、街中のあらゆるものを連携させる海外のスマートシティ構想などに参入できるかもしれません。

世界より先に目に見えていないリスクを把握できる

2つ目は「世界より先に目に見えていないリスクを把握できる」ことです。

スマートホームにおいて、製品やシステムの設計開発段階では、人による誤使用や誤操作(ミスユース)、システム設計時には想定していない使われ方(設計上の限界)による安全性のリスクがわかりません。

たとえば、玄関に顔認証システムを設置しスマートホーム化を進めていたのに、隣に大きな建物が建設されてしまった場合、その建物のガラスに太陽光が反射して光りが差し込み、顔認証システムが特定の時間帯にハレーションを起こして作動しなくなる可能性があります。こうした設置時には想定していなかったリスクが発生してしまう可能性があります。

こうしたリスクを防ぐために「既知の危険」や「未知の危険」をいかにして「既知の安全」へ移行できるかという考え方をSOTIFといいます。
SOTIF(safety of the intended functionality:意図された機能の安全性)はシステム故障由来ではないミスユースや設計上の限界によるリスクを安全にするために以下の領域に分けられます。
・既知の安全
・既知の危険
・未知の安全
・未知の危険

自動運転化のために自動車業界で先行開発された考え方ですが、これをスマートホームに応用して規格開発を進め、実際に起きてしまった危険な事例などのデータを集めて分析し、「未知の危険」にも対応するプロセスの規格を提案し、IECでの国際標準化を目指しています。
スマートホーム版SOTIF規格は日本発のスマートホームにおける機能安全規格の国際標準化を進めていく中で生まれたものですので、規格が承認されればSOTIF 規格の進捗も加速するでしょう。
そうなれば、目に見えていないリスクを世界より先に把握することができ、安心安全な国産スマートホームを国内だけでなく、世界の家庭に届けることができるかもしれません。

まとめ

スマートホームと世界について解説してきました。以下、まとめになります。

・2020年の世界的な新型コロナウイルスは、世界のスマートホーム業界の成長に大きな影響を与えた
・スマートホームテクノロジーの世界市場規模は、2021年から2027年で19.5%のCAGRで成長すると予測されている
・日本初の国際規格開発が達成されれば、安心で安全な日本国産スマートホームを世界中に届けることができる

2020年の世界的なコロナウイルスは、世界のスマートホーム市場に深刻な影響を与えました。しかし、お家時間が長くなったことでより安全で安心、豊かな生活を得るためにスマートホームの需要は高まったのではないでしょうか。日本初のスマートホームに関する国際規格開発がIECによって認められれば、日本産の安心で安全な性能を持った、リスクの低いスマートホーム製品が世界中に広がっていくでしょう。世界のスマートホーム市場はこれからも増々発展していくのではないでしょうか。

関連記事

TOP