業界分析

スマートホームのビジネスモデルはIoEで多様化・変革化する? IoEは「IoTが実現された世界のゴール」

現在、スマートホームのビジネスモデルとしては、エアコンや冷蔵庫、腕時計など、身近なモノがインターネットに情報を伝えるIoTが主流ですが、さらに進化してヒトやサービス全てを内包したIoEが普及されると予測されています。今回はスマートホームのビジネスモデルについて解説します。

IoEはインターネットにつながる全てを内包している

IoT(Internet of Things)とは、家具や家電製品などあらゆるモノがインターネットに繋がり、データの送受信を行うことです。製造業や物流業、医療・介護業界など、様々な分野で取り入れられており、IoT家電として私たちの生活にも浸透しつつあります。

IoE(Internet of Everything)とはモノだけではなく、ヒトやサービスも含めたすべてがインターネットに繋がることです。IoEは世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社であるアメリカのシスコシステムズにより2010年代半ばに提唱されました。
インターネットで繋がり、情報の伝達や共有、受診を行い、情報を蓄積、分析することで社会に役立てることができます。

IoEは、複数のデータを一度に集め、それぞれについて分析を行うことで、その人の状況や環境を分析することが可能です。
たとえば、工場作業員に一人一台スマートウォッチを配布した場合、GPSで位置情報を収集し、作業内容や安全確認、危険個所把握などを行います。また、心拍数を手首で測る事によってストレス状況や負荷がある作業の把握、二酸化炭素濃度データ採取により作業環境の状況や安全性確認を行うことができます。

IoEにより、あらゆるサービスや製品の質が向上し、データの可視化と分析ができるようになるため、手作業や時間のロス、ヒューマンエラーの予防につながります。
IoEは全てのインターネットを繋ぐ大きな概念であり、IoTだけでなく、IoC(顧客)、IoA(能力)、IoD(デジタル)、IoH(ヒト)を含むテクノロジーとして、今後の生活やビジネスに大きく影響をもたらすことが期待されています。

IoCとは

IoC(Internet of Customers)とは、IoTを通じてビジネスや購買活動にかかわるユーザーや顧客が、インターネットに繋がることでより良い製品やサービスを受け取れるようになり、企業側も品質向上や製品開発に顧客データを役立てられるという考え方です。

IoAとは

IoA(Internet of Ability)とは、知覚能力や認知機能、学習能力、身体能力など、ヒトが予め持っている能力をネットワーク経由で交換させたり、能力結合やテクノロジーと一体化することでアップグレードさせるという考え方です。IoAを使って、将来AIと人間の知能を組み合わせることで、思考能力を高めることが可能になるかもしれません。

IoDとは

IoD(Internet of Digital)はスマートフォン、携帯電話、パソコンやタブレットなどの端末のほかにも、サーバー・基幹系のシステムなど、ネット通信が可能なデジタル機器をインターネットにつなぐことです。

IoHとは

IoH(Internet of Human)はデジタル機器やモノだけでなくヒトまでもがインターネットに接続される概念のことです。つまり、人がIoDとIoTの間に立ち、通信の役割を果たすということです。
たとえば、時計やメガネなどのウェアラブルデバイスや、直接ICチップを体に埋め込んだりして生体情報をインターネット接続させ、データ化し、蓄積・分析することで自身の健康管理や医学の発展に貢献できます。

IoTとIoEの違い

IoTとIoEの違いは、利用目的を特定の目的や用途に限定するか、広い概念としてとらえるかです。

IoTは特定の目的や用途に限定して利用することを前提としています。全てのモノとインターネットが接続されることにより、生活の利便性向上とビジネスの変革を目的としています。これまで特に意識することのなかった小さなモノでさえ、インターネットに接続すれば何倍もの利便性を生みだします。

IoEは街づくりや国の仕組み、環境問題などをきわめて俯瞰した視点からテクノロジー活用を検討する考えです。モノに限定されず、まさに全てのものがネットワークを持つ時代を意味します。

IoEはIoTのゴールの世界

現在のようにPCやスマートフォンのような情報端末だけがネットワークに接続されるのではなく、ネットワークに接続されたモノがごく自然に存在していて、公共施設や道路、店舗などがオンラインで繋がった時にIoE社会は到来したということができ、私たちの生活は一変するでしょう。

たとえば、IoTやAIの最先端テクノロジーである自動運転は、歩行者や対向車、周囲を走行している車、障害物などを検知し、撮影した映像をAIで処理して適切な制御を行うために、ネットワーク機能搭載の高精度なカメラが必要です。

しかし、一般の人が自動運転機能搭載の車が普及する時、全ての車がその車に置き換わるわけではないため、従来の手動運転者と自動運転車が混在する状態になってしまいます。

その場合、信号のない交差点で双方の車が止まる状況になった時にどちらが先に発信するのか双方の意思をコミュニケーションしながら調整しなければいけない問題が発生してしまいます。IoTが発達しても、それが社会全体ではなく一部のユーザーや企業だけで活用されると、本当の価値発揮が難しくなるからです。

そのため、IoTを誰もが手軽に利用できる身近な存在として社会実装することで、初めてその力を活かせるようになります。
私たちの生活に欠かせないモノや仕組みがIoT化され、それらが広く社会に広まっていったとき、IoEとは「IoT社会が実現した世界」であり、ゴールの姿といえるでしょう。

IoE社会実現の課題

IoTが社会実現されたIoE社会到来の前には、様々な懸念や解決すべき課題があります。
IoE社会が到来すると、ヒトの欲しい情報などもコンピューターが予測して自動的に提供可能となるため、非常に便利です。しかし、常に監視されているように感じたりと心理的抵抗感を払拭するのは難しいです。
ネットワークに接続することで一気に情報が拡大され、セキュリティリスクが高くなるのではないかと不安になるのは当然でしょう。
IoE社会実装実現のためには、スマートフォンのようにプライバシーがしっかり守られていて安心して利用できるものであると正しく認知させ、万全のセキュリティ対策を取ることが最低限の条件といえるでしょう。

IoEの導入例

世界でIoE社会実用化に向けて一歩一歩着実に課題を解決し、一部の大都市圏では実際導入が進められています。

スペイン第二都市のバルセロナはIoEを市街地へいち早く導入しました。
2000年頃からIoE導入を始めたバルセロナ市役所は市全体の公共データを収集、一元的に管理することでデジタル化された行政サービスを市民に提供し、交通システムや街灯、散水システムなどインフラ設備の経費削減や市民サービス改善と向上を行っています。

たとえば、市街地へ容量を自動で計るゴミ箱を設置しています。ゴミの量が少ない日は回収を行わないことで、廃棄物回収の効率化を目指しています。また、都市全体を覆うWi-Fiネットワーク網によりセンサー設置をした駐車場では、常時空き状況をチェックすることで、駐車場を利用したいドライバーがスマートフォンアプリを起動するだけで空きスペースをすぐに見つけることができます。

IoE導入が早かったバルセロナでは、あらゆるサービスやインフラ稼働状況が即座に利用者に伝えられ、人の手による作業や時間ロスが削減されていっています。
しかしIoEによって人間の仕事がなくなるわけではなく、バルセロナはスマート都市化により1,500社以上の会社と4,400人分の雇用を生んでいます。

バルセロナでは今後10年間で4.6兆ドル(約481兆円)の価値を生み出すと予測されており、その事例を受けて各国の都市ではIoE化が活発に行われるなど、世界中のビジネスに影響を与えています。

IoE化でスマートホームのビジネスモデルが変わる

IoE化が進むと、IoT製品が多くリリースされ、これまでのスマートホームのビジネスモデルが一新されます。

従来の消費者購買プロセスは、PCやスマートフォンでインターネットに接続し、ネットショッピングから商品を購入する、またはサービスを受け取るか、お店まで行って購入・利用するかでした。

スマート冷蔵庫の場合、ドアについたタッチパネルから冷蔵庫内の食材を確認し、インターネットから足りない食材を購入することができます。しかしIoEの技術が進むと、クレジットカード情報とスマート冷蔵庫が紐づけされ、登録した食材が足りなくなり、データに基づきこれは再注文が必要か分析した結果、自動注文してくれるといったシステムが構築される可能性があり、ヒトの手を煩わせることなく買い物ができるかもしれません。

また、農作物の育成に関する作業などを完全にデータ化し、分析することで特別な経験やスキルがなくても簡素化されたプロセスマニュアルを構築し、誰でも農業に参加でき、IT技術活用で危険な作業などを排除するスマート農業(農業のデジタル化)にも貢献しています。スマート農業が進んでいるオランダでは、アメリカのわずか2,000分の1程度しか国土面積がありませんが、農産物輸出額はアメリカに次いで世界第2位となっています。IoEは生活だけでなく、農業のようにITとは縁遠い分野さえも変革していきます。

このように、IoE化の加速により消費者の購買プロセスや働き方が多様化し、それに伴い多くのマーケティング手法やビジネスモデルが確立されていきます。スマートホームのビジネスモデルもIoE化によって多様化、変革化していくでしょう。

まとめ

スマートホームとビジネスモデルについて解説してきました。以下、まとめになります。

・IoEとはモノだけではなく、ヒトやサービスも含めたすべてがインターネットに繋がった「IoT社会が実現した世界」であり、「ゴール」の姿
・IoEによって人間の仕事がなくなるわけではなく、バルセロナのようにIoEと雇用は結びついている
・IoE加速化により、スマートホームビジネスモデルだけでなく様々なビジネスやマーケティングが多様化、変革化していく

現在のスマートホームのビジネスモデルは、特定の目的を持ったIoT製品やスマートホーム製品を通じてデータを集め、スマートフォンやパソコンなどインターネットを通じて情報を通信し、人間が判断することで成り立っています。
しかしIoEにより、ありとあらゆるモノやヒト、情報、能力などがインターネットを通じて繋がり、ITとは関係なさそうな分野さえ開拓していく可能性や、人間が判断することなく、蓄積されたデータに基づき自動的に結果を下すというスマートホームの未来さえも実現させるかもしれません。

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